アンカーで輝いたいぶし銀…「今野泰幸はロシアW杯で長谷部の代役になり得るか?」の答え

通算7試合目の出場となったハリルジャパンでも、所属するガンバ大阪でも、初めて見る光景の中に34歳のチーム最年長、今野泰幸はいた。

後方にはキャプテンの昌子源(鹿島アントラーズ)とガンバの後輩、22歳の三浦弦太がセンターバックを形成している。前方に目を移せば、大島僚太(川崎フロンターレ)とガンバのチームメイト、倉田秋がインサイドハーフとして左右対で並んでいる。

中国代表と味の素スタジアムで対峙した、12日のEAFF E-1サッカー選手権第2戦。ボランチで先発フル出場した初戦の朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)代表戦に続き、先発メンバーに名前を連ねた今野がヴァイッド・ハリルホジッチ監督から託されたポジションは、一転してアンカーだった。

「監督からは『とにかくあのポジションにいろ』と言われた。あのポジションだけは誰にも渡さないように、攻撃になってもあまり前に行かないように、サイドに流れないように意識しました」

今野が口にした「あのポジション」とは、言うまでもなく自陣のバイタルエリアだ。相手チームを含めたピッチ上のすべての選手の動きを把握し、試合の流れを正確に読み取りながら最終ラインの前における番人に徹し、ゴールやチャンスの二手前、あるいは三手前となるパスも供給する。

相手ボール時には、2人のインサイドハーフを的確に動かすコーチングも求められる。攻守両面におけるキーマンは、ハリルジャパンでは長谷部誠(アイントラハト・フランクフルト)が担ってきた。

しかし、国際Aマッチデー以外の開催となる今大会に、海外組は招集できない。ましてや33歳の不動のキャプテンは、今春に手術した右ひざが思わしくなく、ブンデスリーガで出場と欠場を繰り返している。現地時間9日のバイエルン・ミュンヘン戦もベンチ外だった。

「ケガの影響で長谷部がワールドカップに出られない、という最悪の事態も想定して準備しなければならない」

E-1選手権のメンバー発表会見でハリルホジッチ監督はこう語っていたが、11月のヨーロッパ遠征・ベルギー代表戦でアンカーを務めた山口蛍(セレッソ大阪)が、帰国後に右足のけがで戦線離脱した。まさに緊急事態で、白羽の矢を立てられたのが今野だった。

追加招集されたDF室屋成(FC東京)とMF土居聖真(鹿島)を含めて、今大会でA代表に初招集されたのは計7人。開幕前の時点で国際Aマッチ出場数が2桁に達していた選手は、「90」の今野の他には「10」のFW金崎夢生(鹿島)しかいない。

ワールドカップ代表歴を持つのも、南アフリカ、ブラジルと2大会連続でピッチに立った今野と、あとはGK権田修一(サガン鳥栖)だけ。しかも、後者はリザーブのままブラジル大会を終えている。

経験と実績の両面で群を抜くベテランを、ロシア大会開幕まで約半年となる段階で復帰させた理由は何か。おそらくアンカーとしての適性を実戦で試す青写真を、指揮官は描いていたはずだ。果たして、2‐1の勝利を告げる笛をピッチ上で聞き、大役を務めあげた今野は「けっこう楽しかった」と意外な思いを口にした。

「ハセ(長谷部)の真似をしようとはまったく思わなかったし、とにかく監督の要求に応えられるようにプレーしようと。どう評価されるのかは分からないけど、もっとボールを蹴れる、もっとパスをつなげると何回も思ったところを、かなりセーフティーにプレーしました。セカンドボールもよく拾ったと思うけど、運動量はそれほど多くなかった。あのポジションをほとんど崩さなかったから。けっこう長く(バイタルエリアに)いたと思いますけど」

ハリルホジッチ監督の指示を守りながら、それでも未知のポジションでアイデアがどんどん閃いてきた自分を楽しんでいたのか。スタミナも余っていたのだろう。リードを2点に広げた88分に、左サイドのゴールライン付近まで攻め上がっている今野は悪戯っぽく笑った。

チーム事情から、ガンバでの終盤戦では三浦とセンターバックを組んだ。ユーティリティーぶりも今野の特徴の一つだが、最大のストロングポイントは最終ラインの前でいぶし銀の輝きを放つ、ボールホルダーとの間合いを一気に詰めるアプローチの速さとなる。

「後ろから見ていてすごく頼もしかったし、安心感がありました」

国際Aマッチデビューを勝利で飾った三浦が声を弾ませれば、さらに後方でゴールマウスを守ったガンバのチームメイトで、長谷部のプレーぶりも熟知しているGK東口順昭は「コンちゃん(今野)の生きる道はやっぱりあそこやね」と笑う。

「ハセさん(長谷部)とは全然違うけど、守備面では誰よりもボールに対してガツガツいってくれる。後ろの選手はコースを限定しやすいですよね」

ボランチを務めた北朝鮮戦ではガンバの後輩、MF井手口陽介が終了間際に叩き込んだ決勝弾をアシストした。約2年ぶりに代表復帰を果たした、今年3月のUAE(アラブ首長国連邦)代表とのワールドカップ・アジア最終予選の大一番では、インサイドハーフとして躍動してゴールまで決めた。

「あの年でまだ成長している。ホンマに何でもできる。さすがです。すごいです」

アンカーまでそつなくこなした姿に東口が再び目を細めれば、ハリルホジッチ監督も試合後の公式会見で、ゴールを決めたFW小林悠(川崎)、昌子とともに今野を称賛している。

「タクティクスにおけるディシプリン(規律)が素晴らしかった。アンカーとして守備もよかったし、攻撃もしっかりオーガナイズできていた。(3月の)UAE戦の時の今野が戻ってきた。このパフォーマンスを数ヶ月間、続けてほしい」

指揮官の言う数カ月後、厳密には半年後にはワールドカップ・ロシア大会が開幕する。選出されれば3大会連続となる夢舞台への視界は、北朝鮮戦と中国戦を経て良好になったのだろうか。

「知らないし、何も考えていない。とにかく次の1試合。強敵の韓国代表戦が待っているので」

ゴールを決めれば「喜び方がめちゃキモい」と後輩たちからいじられ、それでいて大仕事を平然とやってのけ、日本代表に対して「生半可な覚悟で来ちゃいけない場所」と畏敬の念を抱き続ける謙虚なスーパーマンから、苦笑いとともに予想通りの言葉が返ってきた。